青い花咲く庭で。

鮮やかな青い花をバティックに。
バンコクでは、タイ人の地主さんの豪邸の敷地内にある、一軒家に住んでいた。
我が家の管理をしてくれるのが、そこのお坊ちゃまだった。
うちの隣の長屋には、お坊ちゃまとその家族やペットのワンちゃんのお世話をする、メイドさん達と運転手のご一家、そして、お知り合い?(いつも、入れ替わりに誰かが泊まっていた)がワイワイと住んでいた。
お坊ちゃまのメイドさんは、我が家にノックもせず「マダム!」(タイ人は、日本人の奥さんをそう呼ぶ)と言って、勝手に入ってきた。
常夏のある日、いつものように、クーラーを消し、窓を開け、汗をダラダラ流しながら、床のモップ掛けをした後、シャワーを浴びていた。
「マダム!」 悪い予感がした。
ガチャ! またか!
合鍵で、部屋に入ってきた。…しかも、一人じゃない!
慌てて、脱いだ服を着て、ビチョビチョの頭のまま、シャワールームから飛び出す。
・・・・!!!!!
なんと、メイドさんの後ろには、5名ほどの、クーラー掃除のお兄ちゃん達が来ているではないか…!
「え?お坊ちゃまから、連絡来ていませんか? 今日、クーラーの掃除がある、って」若いメイドさんは、オロオロしている。
「いやぁ…(いつものごとく、)全く、連絡来ていないよ~」
「あ、じゃぁ、明日にしますか?」
「いやいや…」もう、お兄ちゃん達が来ているではないか…「いいよ。今日で…。」
1時間後、ピカピカに拭き上げた白い床に、無数の真黒な足跡をつけて、一同は去っていった。
私は、不思議だった。
メイドさん達は、裸足で暮らしている。我が家に用事があるときは、ビーチサンダルを履いて来るのだが、床に足跡をつけながら用事を済ませて、玄関先にビーチサンダルを置き忘れて帰っていく。しかも、数日、取りに来ない。なので、長屋の入り口にそっと返しといてあげる。
勝手に家に入ってくるのに、履きなれないビーチサンダルを履いて来てくれる、心遣いが不思議だった。
この家での、思い出話は尽きない。
ゲートから敷地に入ると、左手に1階がガラス張りの、丸見えの豪邸がある。
その入り口に、可憐な青い花が咲いていた。
スケッチしていると、あちらからも、こちらが丸見えだった。
花の名前を尋ねると、「ハーブ」と教えてくれた。
習いたてのバティックで、青い花を染めた。