え?田んぼを?

思い出をイラストに。

愛すべきお坊ちゃまの豪邸の裏と、メイドさん達の長屋の間に、6畳ほどの花壇があった。

ちょうど、私たちが引っ越してきた時に、運転手さんご一家が、畑用の土を運び込んで野菜を植え始めていた。

歯医者に行こうと慌てて中庭を横切った時、お坊ちゃまと、その畑の前で出くわした。

お坊ちゃまは、「どうだ?いい感じだろう?」という満足気な顔をして、その畑を眺めていた。

そして、私に、「ここは、そのうち、田んぼにするんだよ。」と言った。

「え…」 「田んぼ?」 「ここに?」

「そうだ、ここ一面、田んぼにするんだよ。」と、言って、右腕を伸ばし、左から右へゆっくりと水平に動かした。

「え? ライスフィールド?」と、聞いて、私は、ご飯を食べるしぐさをした。

「チャイ(そうだ)、rice field 」と言って、広々とした草原を見るような眼をキラキラさせていた。

さて、バンコクの街角で、祠のようなものをよく目にする。

家や建物に1つずつあるようで、大きさや装飾はその建物のご主人の懐事情に比例しているように見えた。

もちろん、お坊ちゃまのお家の中庭にも、樹齢何百年もの壮大な木の隣に祠?があった。

日本に帰る友達が、お別れのプレゼントにイラストを描いてほしいとリクエストしてきたので、彼女の家族と、彼女が一番落ち着くというお寺を描くことにした。しかし、お寺に出向いてスケッチするには暑すぎたので、バンコクの思い出にもなるし、祠?でいいかな、と、祠?を描くことにした。

そこで…、後から思えば、写真を撮ってクーラーの効いた部屋で描き写せば良かったのに、わざわざスケッチをしに外に出た。

蚊と汗と闘いながら、セッセと描いていると、お坊ちゃまが覗きこんであれこれ話をしてきた。

ついでに、向かいのマンションに住んでいるアメリカ人が犬の散歩の途中に寄ってきた。

足にまとわりつく犬と蚊と汗と、手だけを動かしたいのに耳と口をフル動員して、クタクタになって帰った。

次の日、祠はきれいに掃除されていて、立派なパイナップルがお供えされていた。

どうやら、ほったらかしにして薄汚れた祠をスケッチされた挙句、Instagramに出すから見てね、と言っていたので、掃除をしてくれたらしい。

惜しい!もう、スケッチは終わっている。

その祠の向かいに6畳ほどの畑があった。

年々、野菜の種類が充実し、大きく育つようになってきた。

畑の脇の木には、鳥の巣や、陶器の飾りがぶら下がり、私たちがバンコクを去る頃には、可愛らしいガーデニングスペースになっていた。

お坊ちゃまの広大なライスフィールドの夢は、もうすでに何処かで叶っているのだろうか…

こんにちは!

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